「財布を盗まれた」
「お金を払ったはず」
「料金はまだ払っていないの?」
「お金がないから生活できない」
認知症の親から、お金に関する言葉を何度も聞き、どう対応すればいいのか悩んでいませんか。
お金の話は、家族にとってとてもつらい問題です。
特に「あなたが盗んだ」「お金を持っていった」と疑われると、悲しさや怒り、やりきれなさを感じる方も多いと思います。
私が長年現場に関わり、多くの認知症の方とご家族を支援してきました。
その中で感じたのは、認知症の方がお金のことを何度も訴える背景には、単なる物忘れだけではなく、不安や責任感が隠れていることが多いということです。
この記事では、認知症の親がお金のことで不安になる理由と、家族ができる対応を、現場経験をもとにわかりやすく解説します。
認知症のお金の不安は「記憶」だけでなく「安心感」が関係しています

認知症の親がお金のことで不安になるのは、単に「物忘れをしているから」だけではありません。
もちろん、財布の置き場所を忘れたり、支払いをしたかどうか分からなくなったりすることはあります。
しかし現場で多くの方を見てきて感じるのは、その背景に「迷惑をかけたくない」「きちんと支払わなければいけない」「お金を失ったら困る」という不安や責任感があるということです。
家族としては、まずこの視点を持つことが大切です。
記憶障害で財布や支払いの管理が難しくなる
認知症になると、新しい出来事を覚えておくことが難しくなります。
たとえば、財布を引き出しにしまったことや、料金の支払いが終わっていることを忘れてしまうことがあります。
その結果、
「財布がない」
「まだ払っていない」
「お金を持っていない」
という不安につながります。
家族から見ると「さっき説明したのに」と感じるかもしれません。
しかし本人にとっては、その時その時で本当に困っている状態です。
長年の責任感や生活習慣は残っている
認知症になっても、長年身についた価値観や生活習慣は残っていることがあります。
「お金は大切にしなければならない」
「人に迷惑をかけてはいけない」
「サービスを受けたら料金を払うもの」
こうした感覚は、その方が長い人生の中で大切にしてきたものです。
だからこそ、支払いの仕組みが分からなくなったときに、「払っていないのではないか」「迷惑をかけているのではないか」と不安になりやすいのです。
不安が「盗まれた」「払った」などの言葉になる
認知症の方のお金に関する訴えは、いろいろな形で出てきます。
「財布を盗まれた」
「お金を払ったはず」
「料金はまだ払っていないの?」
「お金がない」
これらの言葉だけを見ると、家族は責められているように感じます。
しかし、言葉の奥には「不安」が隠れていることがあります。
本人は責めたいのではなく、「どうしたらいいか分からない」「困っている」という気持ちを表している場合も多いのです。
家族は事実より安心を優先した対応が大切
お金の話になると、家族はどうしても事実を説明したくなります。
「盗んでいない」
「もう払っている」
「お金はあるから大丈夫」
もちろん、事実を確認することは大切です。
ただ、認知症の方が強い不安の中にいるときは、正しい説明だけでは落ち着かないことがあります。
まずは、
「心配になりますよね」
「一緒に確認しましょう」
「大丈夫ですよ」
「何が心配なの?」
と、不安を受け止めて安心してもらうことが大切です。
なぜ認知症の方はお金のことで不安になるのか
認知症の方がお金のことで不安になる背景には、いくつかの理由があります。
現場では、「お金がないから不安」という単純な話だけではありませんでした。
むしろ、「支払いができていないのではないか」「誰かに迷惑をかけているのではないか」という不安が強い方も多く見てきました。
支払いへの不安が背景にあることが多い
リハビリが終わったあとに、
「料金はいくら?」
「お金は大丈夫ですか?」
「今日は持っていなくて申し訳ありません」
と何度も確認される方がいました。
これは、お金そのものへの執着というより、「支払うべきものを支払えていないのではないか」という不安から出ていることがあります。
本人の中では、「サービスを受けたらお金を払う」という感覚が自然に残っています。
そのため、その場で支払いをしないことが、かえって不安につながる場合があります。
介護保険の仕組みは本人にとって理解しにくい
介護保険サービスでは、その場で現金を支払わないことも多くあります。
家族や専門職にとっては当たり前の仕組みでも、認知症の方にとっては理解しづらいことがあります。
「なぜ今日は払わなくていいのか」
「本当に料金は済んでいるのか」
「あとで迷惑をかけないか」
こうした不安が、何度も同じ質問として出てくることがあります。
説明してもすぐ忘れてしまうため、家族は疲れてしまいます。
しかし本人は、毎回初めて不安になっているような状態です。
リハビリや介護サービスを「その場で払うもの」と思っている方も多い
現場では、リハビリを「マッサージのように、その場で料金を払うもの」と考えている方も少なくありませんでした。
長年の生活習慣として、何かを受けたらその場でお金を払うという感覚があるからです。
そのため、リハビリや介護サービスを受けたあとに支払いがないと、
「まだ払っていない」
「お金を渡したはず」
「払わなくて本当にいいのか」
と不安になることがあります。
この場合、「払わなくていいですよ」と言うだけでは、かえって不安が強くなることもあります。
本人にとっては、支払わないこと自体が落ち着かないのです。
穏やかな対応が安心につながることを何度も見てきた
現場で印象に残っているのは、家族が穏やかに対応することで、本人の気持ちが少しずつそれていく場面です。
何度も強く説明したり、叱責したりすると、不安や怒りが強くなることがあります。
一方で、
「心配でしたね」
「こちらで確認していますよ」
「大丈夫ですよ」
と落ち着いて受け止めると、少しずつ表情が和らぐ方もいました。
もちろん、すぐに解決するとは限りません。
それでも、受け入れ、時間をかけて安心してもらうことが、結果的に落ち着きにつながることは多くありました。
よくある質問
財布を盗まれたと言われたらどう対応すればいい?
まずは強く否定しないことが大切です。
「盗んでない」と言いたくなるのは自然なことです。
しかし、本人は「財布が見つからない」という不安でいっぱいになっていることがあります。
そのため、最初は、
「財布がなくて心配なんですね」
「一緒に探しましょう」
と、不安な気持ちを受け止める対応がよいです。
事実を証明するよりも、安心してもらうことを優先しましょう。
「お金を払った」と言い張るのはなぜ?
本人の中では、「払ったはず」という感覚になっていることがあります。
これは嘘をついているわけではありません。
認知症によって記憶があいまいになると、実際に支払ったかどうかの確認が難しくなります。
また、「サービスを受けたら支払うもの」という生活習慣が残っているため、「払ったはず」と思い込むこともあります。
家族は無理に訂正し続けるより、「確認してありますよ」「大丈夫ですよ」と短く安心できる言葉で伝えることが大切です。
「料金は払わなくていいの?」と何度も聞かれます
この場合は、支払いの仕組みが分からず不安になっている可能性があります。
特に介護保険サービスでは、その場で現金を払わないことも多いため、本人にとっては理解しづらい場合があります。
「今すぐ払うものはありません」
「必要な支払いは家族が確認しています」
「大丈夫ですよ」
と、毎回同じ言葉で短く伝えると、家族も対応しやすくなります。
長く説明しすぎると、かえって混乱することがあります。
「お金がない」と不安がるときはどうしたらいい?
まずは、本当に生活費や支払いに問題がないかを家族が確認しましょう。
そのうえで問題がなければ、「お金はあります」「大丈夫です」と説明するだけでなく、本人が何を心配しているのかを見ることが大切です。
「生活できるか不安」なのか。
「支払いができないと思っている」のか。
「財布や通帳が見つからず不安」なのか。
背景によって対応は変わります。
本人の不安が強いときは、安心できる言葉を短く繰り返すことが大切です。
家族だけで対応できないときはどうすればいい?
お金の不安が強く、家族への怒りや疑いが続く場合は、早めに相談しましょう。
相談先としては、主治医、ケアマネジャー、地域包括支援センターなどがあります。
特に、
・急に疑いが強くなった
・暴言や怒りが増えた
・暴力につながりそう
・家族が精神的に限界を感じている
・ヘルパーや施設職員とのトラブルになっている
このような場合は、家族だけで抱え込まないことが大切です。
家族の心を守ることも、介護を続けるうえでとても重要です。
まとめ
認知症の親がお金のことで不安になる背景には、記憶障害だけでなく、不安や責任感が隠れていることがあります。
「財布を盗まれた」
「お金を払ったはず」
「料金は払わなくていいの?」
「お金がない」
こうした言葉を聞くと、家族はとても傷つきます。
しかし現場で多くの方を見てきて感じるのは、本人は家族を責めたいのではなく、不安でどうしていいか分からなくなっていることが多いということです。
大切なのは、事実を正すことだけではありません。
「何が不安なのだろう」
「どうすれば安心できるだろう」
と考えることです。
お金そのものが心配なのか。
支払いができていないことが心配なのか。
迷惑をかけていると思っているのか。
介護保険やサービスの仕組みが分からず不安なのか。
その背景に目を向けると、対応の仕方が少し変わります。
強く否定するよりも、まず安心してもらうこと。
長く説明するよりも、短く穏やかな言葉で繰り返し伝えること。
そして、家族だけで抱え込まず、必要なときは主治医やケアマネジャー、地域包括支援センターに相談すること。
認知症のお金の不安は、家族だけで完璧に解決しようとしなくて大丈夫です。
本人も家族も少しでも安心できる形を、周囲の力を借りながら探していきましょう。

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